ジャンピングサーブの実用性について
山本 瑠(平成16年度・卒業論文最優秀賞/ソフトテニス部)

【序論】
 私は、バレーボールの試合で「ジャンピングサーブ」を見て、なぜテニスの世界では使われることがほとんどないのかと考えた。この場合の「ジャンピングサーブ」とは、前に走り込んでジャンプして打つことである。ルールやプレーに参加する人数、ネットの高さなどが原因かもしれないが、前に走りこむ分だけ前方への力が大きくなりボールに伝わる力も大きくなる。さらに、高い打点から打ち下ろす分だけ重力も利用できるのでより威力のあるボールを打てるはずである。そこで、ジャンピングサーブの方が有利に試合を進めるための条件がそろっているのではないかと仮定し、「ジャンピングサーブ」の実用性について調べてみることにした。

【本論】
まず、スイングスピードの変化によるボールへの力の大きさを調べるため以下のような手順で実験を行った。

〔実験1〕
《条件》
 ・ 後衛用のソフトテニスラケット(Ti 7200)を使用する
 ・ ラケットフレームの側面に反射マーカーを取り付ける。
 ・ トスの高さを考えないものとするため地上からスタンディングサーブは280cm、ジャンピングサーブは
  320cmの高さに天井からひもでボールをつるし、すべて同じ打点となるようにする。
 ・ サーブの様子をハイスピードカメラ(1/250)で撮影する
 ・ サーブの振り出しから振りきりまでを「Frame‐DIAS for Windows」という動作解析ソフトで処理し、イン
  パクト時のスイングスピードを測定する。
 ・ 同時に、球速をスピードガンで測定する。
 ・ スタンディングサーブ、ジャンピングサーブともに20回測定し、比較する。

    [図1]
     
    [図2]
     


【結果】
[図1]・[図2]共に予想していたようなきれいな比例のグラフにはならなかったが、相関係数を求めると
     スタンディングサーブ・・・0.622497 
     ジャンピングサーブ・・・・0.535141 
となることから、球速とスイングスピードは相関が強いことが分かった。
また、スイングスピードは75〜80(km/h)が最も平均的で、球速も150(km/h)前後に集中している。スイングスピードではジャンピングサーブが、球速ではスタンディングサーブがそれぞれ最高値をマークしており、ジャンピングサーブの方が前方への力が強くなる分スイングスピードが上昇したと考えられる。これらを数値化したものが下の[表1]・[表2]である。

            [表1] スイングスピードと球速の関係
スタンディングサーブ ジャンピングサーブ
スイングスピード 球速 スイングスピード 球速
1 68.266 137 77.448 146
2 71.337 142 77.177 145
3 74.977 153 76.156 148
4 77.885 154 75.970 142
5 75.635 155 68.413 129
6 75.889 141 81.783 145
7 78.604 154 82.316 142
8 74.514 154 75.405 153
9 76.888 141 77.425 135
10 75.961 136 82.469 152
11 76.956 143 77.076 156
12 80.145 149 82.873 152
13 79.818 158 85.005 150
14 76.737 163 72.737 136
15 78.630 154 77.085 156
16 79.804 148 77.680 156
17 77.845 153 75.959 154
18 84.796 169 73.379 130
19 77.611 159 71.512 137
20 77.024 153 81.463 147
平均 76.966 151 77.467 146


            [表2]   最高値と最低値 
スイングスピード 球速
最高 最低 最高 最低
スタンディングサーブ 84.796 68.266 169 136
ジャンピングサーブ 85.005 68.413 156 129
                      


【考察1】
上の図・表からスイングスピードと球速には相関関係が見られることが分かり、また、スタンディングサーブよりもジャンピングサーブの方がスイングスピードにおいて平均的に速いことが明らかになったが、ここで大きな矛盾が生じてしまった。それは、「ジャンピングサーブの方がスイングスピードは上回っているのに、球速ではスタンディングサーブの方が速い」と言うことである。[図1・2]より、スイングスピードが球速に直接関係していることが分かっているが、[表2]にして考えてみると明らかにデータが反対になってしまう。これは私の一つの仮説でしかないが、ジャンピングサーブの場合どうしても上に飛ぶ分だけ目線がずれ、いくらボールが止まっている《条件》と言っても、インパクトの際に多少真ん中のスウィートスポットから外れてしまい最大の反発力を得られないため思った以上に球速が上がらないのではないかと考える。それに対しスタンディングサーブは地面に両足がついているため、目線が安定し、ボールをしっかりと捉えることができるのでスイングスピードで少々劣っていても、最大反発力を手に入れて最高速をマークできるのだろう。そこで、この仮説を確かめるため次のような〔実験2〕を行った。
           
  

〔実験2〕
《条件》
 ・ ボールに青いチョークで色をつける
 ・ ラケット面に白い模造紙を貼り付け、スタンディングサーブ、ジャンピングサーブともに20回ずつ行い、
  ボールの跡の位置を比較する
 ・ トスの高さを一定とするため地上からスタンディングサーブは280cm、ジャンピングサーブは320cmの
  高さに天井からひもでボールをつるし、すべて同じ打点となるようにする


【結果・データ】

           
      [図3]「スタンディングサーブのインパクト点」   [図4]「ジャンピングサーブのインパクト点」               


【考察2】
 〔実験2〕の結果より、【考察1】の仮説通りスタンディングサーブがほとんど真ん中(スウィートスポット)周辺に集まっているのに比べ、ジャンピングサーブはやや散らばっている感がある。【考察1】で述べたような矛盾はこれが原因だと考えられ、スイングスピードが速くても球速が遅かったのは、インパクトの位置が真ん中(スウィートスポット)から遠かったためのようだ。また、その他にも影響していると考えられるものがこれらの実験を進めていく中で明らかとなったが、その一つは「スイングスピードの最高速の位置とインパクトの位置の関係」で、それを示したのが次のグラフである。 


前頁のグラフのような形より、ジャンピングサーブは、
インパクトする前に最高速をマークする場合 (減速する打ち方) 15/20回
インパクトしてから最高速をマークする場合 (加速する打ち方) 3/20回       
インパクト時が最高速の場合   2/20回
という結果になった。つまり、最高速の後に減速しながら打っているのがほとんどなのだ。

逆に、スタンディングサーブは
インパクトする前に最高速をマークする場合 (減速する打ち方) 2/20回
インパクトしてから最高速をマークする場合 (加速する打ち方) 16/20回
インパクト時が最高速の場合  2/20回インパクトする前に最高速をマークする場合 (減速する打ち方) 2/20回
インパクトしてから最高速をマークする場合 (加速する打ち方) 16/20回
インパクト時が最高速の場合  2/20回
となり、ジャンピングサーブとは対照的な結果となっている。
こちらは、インパクトから最高速に向けて加速しながら打っているのである。

 ジャンピングサーブにおいて、最高速(156km/h)をマークした2回はいずれも「インパクトしてから最高速をマークする場合」であり、スタンディングサーブにおいて、最低速(136km/h)と2番目に遅い速度(137km/h)がそれぞれ、「インパクト時が最高速の場合」と「インパクトする前に最高速をマークする場合」であることから、インパクト時のラケット上でボールを捉える箇所を無視した場合に球速を上げるためには、インパクトの後に最高速を持ってくるような打ち方が理想的と考えられる。(多少の例外はあるが、ほとんどの場合に関して言えることである)。これを裏付けるのが次のようなデータである。    
    [表3]                           
インパクトする前に最高速をマークする場合 (減速する打ち方) 142.59(km/h)
インパクトしてから最高速をマークする場合 (加速する打ち方) 153.05(km/h)
インパクト時が最高速の場合 148.75(km/h)
          
つまり、ほとんどの場合
  「インパクトする前に最高速」<「インパクト時が最高速」<「インパクトしてから最高速」
の順に球速が上がると言う関係が成り立つことが分る。
では、「なぜインパクト時に最高速を持ってくるのが最も速くならないのか?」というと、軟式テニス特有のボールの柔らかさにあると思われる。打った瞬間、ボールと接触している時間が硬式野球は1000分の1秒、ゴルフは10000分の1〜4秒であるのに対し、硬式テニスが1000分の2秒、軟式テニスに至っては、1000分の3秒とほかと比べて接触時間が長いのである。だから、打った瞬間に最高速を出すよりも接触時間中に力を加えていけるような、スイングスピードが加速していく打ち方が良いのだろう。
【考察3】
  もう一つの原因となっているのは、「インパクト時から最高速までの時間の差」である。〔実験1〕でスタンディングサーブ・ジャンピングサーブをそれぞれ20回ずつ行ったわけだが、その際の「インパクト時から最高速までの時間の差」を調べてみると、「インパクトする前に最高速をマークする場合」・「インパクトしてから最高速をマークする場合」において、時間の差が大きければ大きいほど球速が下がっていることが分かった。(「インパクト時が最高速の場合」はインパクトと最高速が一致するため時間の差がない)。つまり、どんな場合においてもインパクトと同時か、もしくはそのすぐ前後に最高速をマークすることが球速を増す要因となるのだ。言いかえれば、インパクトは最高速により近づけたほうがよいと言うことである。しかし、【考察2】の[表3]より「インパクト時が最高速の場合」となると若干球速が落ちるので、やはりインパクトの後に最高速を持ってくるのが最も理想的な打ち方と言える。


【結論】
実験・考察の結果から、序論でも仮定した通りジャンピングサーブの方が前方への力が大きくなる分スイングスピードが速くなることが分かったが、球速はこれとは別問題でボールを捉えた時のボールのラケット上での位置や、インパクトと最高速の関係などの要素が加わったために予想に反した結果が出てしまった。現段階では、試合で使うサーブとなるとやはりスタンディングサーブの方がより実戦的だと言えるが、ジャンピングサーブも練習しだいではかなり大きな武器となりうる可能性がある。具体的には、まずジャンピングサーブに多く見られた「インパクトする前に最高速」をスタンディングサーブに多い「インパクトしてから最高速」にすることによって、スイングスピードが加速していく打ち方にするのである。次に、インパクトと最高速の時間差を小さくし、インパクト後のボールとラケットの接触時間中に最高速の運動エネルギーをボールに伝えるのが重要となってくる。もちろん、インパクトはスウィートスポットで捉えられるように練習すべきである。スウィートスポットでインパクトした後、スイングスピードを加速させる打ち方にすることで、もともとスイングスピードは速くなっている分スタンディングサーブ以上に有効性のあるサーブへと進化するのだ。そのためには、練習で意識的に最高速の位置を操作できるぐらいの感覚を養う必要がある。
今回の実験では、ジャンピングサーブにおいて球速が増すだろう方法は分かったが、精度や安定性、体への負担、疲労度など試合に使えるかどうかを判断する基準はまだまだたくさん残されている。特に、今回はボールの位置を固定しての実験であったため、最も難しいと考えられるトスのデータが全く無い。球速とスイングスピードによるジャンピングサーブの実用性が分かった今、実戦を想定した実験が今後の重要な研究課題となってくる。


○参考文献○ 
金子公宥:改訂スポーツ・バイオメカニクス入門‐絵で見る講義ノート‐、p.67、杏林書院、東京、1982



【担当者より】
 試行錯誤を続けながら根気よく実験を続けていました。その甲斐あって見事に最優秀賞を受賞した山本瑠君、本当におめでとう。
さて、今回の実験ですが、ソフトテニスにジャンピングサーブがなぜ実践されないのか、という疑問からスタートしています。これは、今までの常識にとらわれず、新しいことにチャレンジしようという姿勢が見られました。結果的には、今までのスタンディングサーブが有効であるという結果になっていますが、今回の実験は必ずしも無駄ではなかったと思われます。今後、彼の競技生活に必ず活かされること、そして彼の研究熱心なその姿勢が、日本のスポーツ界に大きく貢献されることを期待したいと思っています。(山本)

注意:本ページで公開している論文は、本校の卒業生(当時3年生)が作成した卒業論文です。
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